株はランダムウォークする?~株価をスペクトラム解析してみる~
株価はランダムウォークする、という話を聞いたことはないでしょうか。すなわち、短期の値動きは予想が不可能で、それを予想しようとすることは投資ではなく投機(=博打)である、というのです。しかし、本当に規則性はないのでしょうか? 気になったので、フーリエ変換を使ってスペクトラム解析をして、ランダムウォーク説を考察してみます。
まずは株価データを用意
今回は下記の株価データを使用します。以前作ったスクレイピングツールに適当に銘柄コードを入力して準備したものです。どの企業のものかは知りませんが、今回はあまり関係ないので、良しとします。
ちなみにスクレイピングとは、Web上から自動でデータを取集する手法です。これが使えるようになるとあらゆるデータを自動かつ瞬時に取得できるため、かなり便利です。
まず目につくのは2008年頃の大暴落です。リーマンショックの影響と思われますが、凄まじい暴落の仕方です。リーマンショック前の水準に戻るまで約10年の月日を要しており、長い日本経済の停滞を感じさせます。
フーリエ変換ってなに?
フーリエ変換とは。。。?と思われた方。簡単に説明すると、ある周期をもつ波形(今回は株価)を複数の正弦波に分解するという、信号解析によく用いられる手法です。
例えば上記の右の波形をフーリエ変換してみましょう。この波形は左図の3つの波形を足し合わせたものです。上から二番目、三番目の波形はそれぞれ一番目の波形の5倍、15倍の周波数を持つ正弦波です。
フーリエ変換の結果、横軸の1,5,15に成分を持つことがわかります。すなわち、基本となる波と、その5倍波、15倍波の加算した波形であるという正しい結果を導くことができました。
ではこれを株価に使用したとき、何がわかるのでしょうか? 株価も複数の正弦波の重ね合わせだと考えてみましょう。フーリエ変換を使用することで、株価が長期(周波数の低い)の変動の影響を大きく受けるのか、あるいは短期(周波数の高い)の変動の影響を大きく受けるのか、それらを定量的に分析することが可能になるはずです。
さっそくフーリエ変換してみる
最初に紹介した株価をフーリエ変換した結果がこちらです。横軸(freq.)が大きいほど周波数の高い成分(短期的な変動)です。また、縦軸はその影響の大きさの度合いを表しており、デシベルに変換しています。10[dB]下がるごとに影響は1/10になります。すなわち-20dBは株価に1%の影響を与えます。
ここで、-20dB以上の成分のない周波数以降を除去してみます。橙色が残った周波数成分で、株価に与える影響が大きいといえます。ちなみに橙色の部分は130日以上の周期です。130日より短い周期の成分は完全に除去されています。
短期の変動を除去したチャートはどうなる?
橙色の成分のみを残して今度は逆フーリエ変換をしてみます。逆フーリエ変換とは文字通り、フーリエ変換が時間データ⇒周波数データ変換をしたのに対して、逆に周波数データ⇒時間データに変換します。
逆フーリエ変換して再び時間データに戻したものを元の株価データに重ねてみます。どうでしょうか? ほとんど株価を再現しています。元のチャートと、130日未満の短期変動成分を除去したチャートの誤差はどのようになっているでしょうか。誤差の累積確率分布(CDF)は下記のグラフのようになります。
このグラフが示しているのは、先ほどの橙色のチャートは90%の確率で、実際のチャートとの誤差が約8%以下に収まるということです。すなわち、130日未満の短期変動の影響を一切無視しても、株価を約8%以下の誤差でほとんど再現可能だということです。
最後に
今回の結果はランダムウォーク理論をおおよそ裏付けていると思います。数日の値動きを見て株価を予想することは意味がありません。それよりもはるかに重要なのは長期変動のサイクルを見極めることです。いまは上昇トレンドなのか、はたまた下降トレンドなのか、それを知ることが最も重要なことです。そして次に重要なのは株は長期で持ち続けること。短期での値動きに翻弄されて売り買いをすることはパフォーマンスの低下を招きます。その企業の長期的な展望をしっかり予測し、腰を据えて保有し続けるのが株式投資の鉄則です。